に何の様な事を饒舌るかも知れぬ、此の耄碌婆め、お前は甚蔵の留守に外へでも出て行ったのか」婆「ナニ出ては行かぬ門の戸まで甚蔵が例の通り閉めて行ったから」医学士「それでは誰に話しただろう」婆「忘れたよ」医学士「忘れたよもない者だ、ハテな、真逆に甚蔵を乗せて来た馬車の馬丁にでもあるまいネ」婆「アそう、そう、思い出した、甚蔵を送って来た美しい若者に話したんだ」医学士「ア途中で己を呼び掛けたアノ男にか、ハテな、彼奴真逆に探偵では有るまい、通例の商人なら、少しぐらい聞いたとて唯聞き流す丈の事だが、爾して何かコレ婆さん、其の男は根掘り葉掘り色々の事を聞きはせなんだか」婆「忘れたよ」
忘れたは余に取って幸いである。若し覚え居て有の儘を話したら、悪に鋭い此の医学士は決して余を尋常《ただ》の若者とは思いは仕まい。医学士「エエ、好いわ、誰の目にも狂人と分り過ぎるほど分って居るお前だもの、何を云ったって人が真逆に気に留めもせぬだろう」と自ら慰める様に云い、良《やや》あって「所で婆さん、初めの話に帰るのだが、其の美人は誰が抱いて出たえ、馬車の中から」
是が秀子の過ぎし身の事かと思えば、余の身体は石の様になり
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