肥え太って居る。顔の色は紅を差した様に真赤だ、蓋し酒に焼けたのであろう、酒好きの人には得てある色だ、爾して顔の趣きは、恐ろしげと云い度いが実に恐ろしげでなく存外柔和だ、ニコニコとして子供でも懐《なつ》き相な所がある、誰やらの著書に、悪相を備えたる人は一見して人に疑わる、故に真の悪人たる能わず、真の悪人には人を油断せしむる如き愛らしき所のある者なりとの、意味を記してあるのを見たが、此の男などが或いは其の一例では有るまいか、併し能く見ると眼の底に一種の凄い光を隠しては居る、是は博奕などに耽る人に能くある目附きだよ、何うしても尋常の人間ではない。
余は余り彼の様子を見るも宜くないから、唯夫となく一通り見た儘で、彼の反対の側に身を安置し、背後へ寄り掛って眠そうな風を示して居た、茲で読者に断って置くが、昨年の秋ローストンの附近で、線路の故障の為に汽車が転覆した事は、読者が新聞紙で読んだ所であろう、此の汽車が即ち其の汽車で、余も乗り合わして居る一人であったが、勿論其の場に着き其の事変に逢うまでは神ならぬ身の露知らずであった、夫は扨置いて余が眠そうに背後へ寄り掛って居る間に、彼、安煙草は安煙草を咬
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