所から十間ほど離れた所で逢った様子だ、姿は見えぬが何か言葉急しく細語き合う声が聞こえ、爾して巻煙草は口から手へ持ち替られたと見え、星の光が低くなり胸の辺かとも思われる見当で輝いて居る、暫くすると話は終り、二人は分れて、夫人は内へ、男は外の方へと立ち去った、余は直ぐに彼の後を尾けて行こうかと思ったが、秀子の有様も気に掛る、家に這入って何の様な事をして居るか一応は見届けて置き度い。
一先ず家へ帰って客間を窺いて見ると、秀子は何気もない体で、猶起き残る宵ッぱりの紳士三四人の相手になり笑い興じて居る、実に胸中に何れ程余裕のある女か分らぬ、是ならば秀子の事は差し当って心配するにも及ばぬと思い、其のまま戸表《おもて》へ駆出した、勿論彼の男が庭から裏の方へ立ち去った事は知って居るが、裏からは何所へも行く事が出来ぬから、必ず表の道へ出て、停車場の方へ行くに違いない、縦しや姿は見えずとも人通りのない夜の最う一時過ぎだから人違いなどする気遣いはない心の底で多寡《たか》を括って居ると、例の安煙草が何処からか臭って来る、ア、是だ、猟犬が臭いを嗅いで獲物の通った道を尾けるは全く此の工合だと、余は臭いを便りに徐
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