方の茂みの蔭から、密々《ひそひそ》と話しつつ来る二人の人の声が聞こえる、清いのが秀子の声で濁ったのが虎井夫人の声だ。
 二人は余の居る所から二三間先まで来て、立ち止った、余が居るを疑っての為ではなく、話が大変な所へ掛った為足を運ぶのを忘れたのだ、秀子の声「幾等大胆でも真逆に茲へは来ませんよ」虎井夫人の声「来ますとも、開放も同様の此の家ですもの、庭まで来たとて誰に見咎められる恐れもなく」秀子「恐れがないから来るが好いと貴女が云うて遣ったのでしょう」夫人「ナニ私が云うて遣りますものか」秀子「夫なら決して来る筈は有りません、自分の身に悪事が重なって居るのですもの」夫人「論より証拠実は最う来て居ますよ、先刻から向うの榎木の蔭で貴女の出て来るのを待って居ます」
 何者の事かは知らぬが、何うせ秀子の身に害を為す奴に違いないから、余は其の榎木の蔭へ馳せ附けて引捕えて遣ろうかと思ったが、爾も出来ぬ、承諾も得ずに横合いから手を出して、後で秀子に喜ばれるか恨まれるか夫も分らぬから先ア静かに事の成り行きを見て、秀子が甚く当惑するとか其の者が暴行でもする場合に現われようと、此の様に思い直して、暗の中で自分の身
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