来る時が来たなら私の妻になりますか」と云うと「其の様な時は決して来ません」「其の来ぬ者が若しも来る者と仮りに定めれば」「其の時は貴方の妻にでも誰の妻にでも成りますよ」「誰の妻にでもでは了けぬ、私の妻になるとお約束成さい」「約束したとて履行と云う時のない約束だから無益です」「無益でも宜しいから約束なさい」「其の様な空《くう》な約束が何か貴方のお為になりますか」「成りますとも、空でも是が貴女の出来る中の一番近い約束と思えば私に満足ドコロでは有りません、世界を得たほど嬉しく思います」秀子は涙の未だ乾き果てぬ目|許《もと》で異様に笑い「オホホホ可笑い方です事ネエ」余「可笑くても宜いから約束なさい」秀子「ハイ其の様な空な約束なら幾等でも致しますよ」
 空とは云っても空ではない、既に此の約束がある以上は、秀子は生涯|所天《おっと》を持たずに終わるかはた余の妻になるかの二つだ、余の妻にならずして他人の妻になると云う事は決して出来ず、又生涯所天を持たぬと云う事は余の叔父が許すまい、叔父は只管此の家に然る可き後嗣ぎの出来て子孫の繁栄する事を祈って居るから。
 殊に又秀子の心も此の約束で分って居る、幾等空
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