ん私は誠の罪人を探し出して明らかに白状させて爾して自分の汚名を清め度いと思いましたが、彼の死んだ後で是だけの事を知り得たのは残念ですけれど、到底私の手では是だけの罰を彼に帰せる事は出来ず天が代って罰して呉れたかと思えば全く密旨の此の一部分も届いた者として深く感謝する外は有りません」と再び天に手を挙げて礼拝する様にした、余は只管感に打たれるばかりである。

第百十九回 此の世へ暇を

 全く秀子の云う通りで有る、彼高輪田長三は天罰を受けて居たのだ。
 余は秀子に向かい「貴女の熱心が天に届いたのです、けれど秀子さん茲に長居する必要は有りません、死骸の後の処分などは私が致しますから、サア貴女は早く室へ行って一休みすると成さい、余ほどお疲れで有りましょう、ソレに又二人が塔の底へ忍び込んだ事が分り、塔の秘密を人に悟られる様な事が有っては宜く有りませんから」と云うに、秀子は今まで引き立てて居た気も弛んだか全く他愛も無いほど疲れた様で「ハイ、兎も角も暫し休みましょう、爾せねば私は、最う何の考えも定りません」実に其の筈である、二十四時間の上、食事もせず、而も人の一生にも無い程に心を動かした事なれば、如何に健《けな》げな女でも最早堪え難いであろう。
 余も疲れては居るけれど、余の心には大なる不平が有る、漸く秀子の念願が届き掛け其の身の上が幸福に成ろうと云う時に当って、自分から秀子に賤しまれる様に仕向け、秀子を失わねば成らぬかと思えば、仲々気の弛むトコロで無い、休もうとて休まれもせず、独りで篤と此の後の身の振り方なども考えて見ねば成らぬ。
 此の様に思いつつ秀子を送って塔を降り、此の家の二階へは着いた、秀子の室は未だ遠いけれど矢張り此の二階続きに在るのだ、秀子は最う送って貰うに及ばぬと謝して独りで立ち去った、余に愛想を盡さぬ前なら、何も其の室の入口まで余の送って行くのを邪魔だとも思うまいに、アア唯一時、意外な高輪田長三の死に様に驚いて居た間だけは、外の事を打ち忘れて、余に殆ど以前の通り打ち解けた様な容子に語ったけれど、其の驚きが過ぎ去って、心が常の水平に返れば直ぐに余を賤しむ心が戻り、口をきくのも好ましく思わぬと見える、実に権田時介との約束には甚い目に遭った。
 空しく秀子の姿が見えずなる迄見送って、兎に角誰かに高輪田長三の死を伝えねば成らぬがなど思案しつつ、徐々と、下に降る階子《はし
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