する積りで昨夜此の室へ忍び込んだのが此の通り天罰を受ける元に成ったのです」
 理を推し情を尋ねて云う言葉、一々に順序あり脈絡あり、そうでなしと争う可き余地もない程に述べ来るは全く熱心の迸《ほとば》しりて知らず知らず茲に至る者と見える、余は唯聞き惚れて一言をも挿《さしは》さまぬ、秀子「此の室へ来て貴方の書類を探したり咒語の意味を考えたりする為に、自分で戸を〆切ったのですが、何うか云う事で虎井夫人の彼の狐猿が紛れ込み一緒に閉じ込められたのです、爾とも知らず彼様々に思案して居るうち直ぐに自分の頭の上で、時計が十二時を打ち、昔お紺婆を殺した時と同じ様に聞こえましたから、彼は必ず神経を騒がせました、其の時宛も室の隅か何所かで狐猿が異様な物音をさせたのでしょう、彼が何れほど驚いたかは茲に燃えさしの蝋燭が消えて居るのでも分ります、彼手燭を持って立ち上がらんとし其のまま取り落したのです、或いは其のとき彼の紊《みだ》れて居る神経へお紺婆の死に際の顔でも浮かんだかも知れません、彼は狼狽の余り怪物と思って狐猿を攫《つか》むか何うかしたのでしょう、狐猿も死に物狂いに彼の頬を掻き彼の手に噛み附いたのは此の有様で分って居ます」
 爾すれば昨夜十二時の打った後で、余が二度までも異様な悲鳴の声を聞いたは、確かに狐猿の声と彼の叫びとの混じたので有っただろう、秀子の考えに寸分の相違はない、秀子「真暗の処に入れば唯の人さえ恐れを生じますのに況《ま》して彼は自分が養母を殺した此の室に入り、手燭は消え時計の響きは残り、何んとも知れぬ狐猿は騒ぎ廻りますから、必ず逃げ出そうとして戸などを探りましても彼の知って居た頃とは此の室の案内も違い、暗闇で仲々戸を開けられる者では有りません、それに狐猿は或る国では雷獣とも名づけられて居るほどで、雷の鳴る時は甚《いた》く電気を感じ全く発狂の体と為るとも申しますゆえ、定めし散々に荒れ廻り彼の前、彼の背後などから飛び附いたり躍り掛かったりしたのでしょう、彼は子供の折から心臓に異状が有り、殊に此の頃は其の発病の為、若し甚く身体や心を動かしては心臓破裂に為るとて医師に誡められて居るほどゆえ、其の騒ぎに遂に此の通り死んだのでしょう、彼の仕業の為私が手の肉を噛み取られた此の室で、夜の同じ刻限に彼自ら狐猿に悩まされ所々を噛み切られて爾して最期を遂げるとは是が天の裁判では有りませんか、丸部さ
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