見舞わぬ訳に行かぬから、先ず其の病室へ行き看護人に尋ねて見た所、叔父は日増しに快くなる許りであるが今は眠って居るゆえ、二時間程経ねば逢う訳に行くまいとの事だ、夫では停車場へ行って来ての上にしようと、先ず馬厩へ行き、日頃乗り慣れた一頭を引き出したが、三四日誰も乗らぬ為、余ほど奮《はず》んで、殆ど張り切って居ると云う様である、鞍置かせて乗るが否や、鞭も当てぬに一散に駆け出して少しの間に停車場へは着いた、茲で少し許り聞き合わせて見ると直ぐに分ったが、秀子は確かに今朝早くの汽車で此の停車場へ降り、居合わす馬車の御者が、乗る様に勧めたけれど、それに及ばぬと断って幽霊塔の方を指して歩み去ったとの事で、其の御者さえ猶だ茲に居合わせた、サア分らぬ、愈々着いて幽霊塔の方へ行ったとすれば、何う成っただろう、曾て浦原お浦が消滅した様に、消えて了ったのか知らん、或いは停車場と幽霊塔との間で何か用達しでも仕て居るのか、何さま合点行かぬ次第だから余は又馬のまま引き返して村の方へ来ると、少し先の方で歩んで居る小僧が有る、町で朝の買物をして帰る所とでも云う様に手に物を提げて居る、近づいて見れば後姿で分って居るが、其の小僧は確かに先頃余に贋電報の発信人を密告した、彼の千艸屋と云う草花売りの婆の雇人で、手に持って居る品が、此の辺の人の持たぬ貴夫人持ちの提皮包《さげかばん》である、秀子が昨夜此の様な皮包を提げて居たか否やは覚えぬけれど、若しや秀子が草花屋へ立ち寄って此の小僧に何か買物を托したでは有るまいかと思い、馬を猶も其の方に近づけると、小僧は足音に驚いて振り向いた、振り向く途端に馬は驚き、常よりも張り切って居る為に、忽ち逸して、余が手綱を引きしめる暇もないうち横道へ走り出した、後で思うと何か人間以上の力が此の馬を導いたかとも怪しまれる程である、馬は走り走った揚句、遂に其の草花屋へ駆け込んで其の庭で踏み留まった、是だけでは別に怪しむにも足らぬけれど、此の時此の家の奥の室とも云う可き所に方《あた》る一つの窓の戸帳《とばり》を内から颯《さっ》と開いた者が有る、何でも遽しい余の馬の足音に驚き何事かと外を窺いた者らしい、併し其の者、余のpを見て又遽しく其の戸帳を閉め、内に姿を隠したが、余は自分にも信じられぬほど目早く、チラリと其の顔を見た、見て殆ど馬から落ちんとする程に驚き、思わず「ヤ、ヤ」と声を発した、此の
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