比ぶれば、確かに玉と石ほどの相違はある、けれど秀子の顔を写した者には違いない、人間業で秀子の顔を、他の品物へ写すとすれば是より上に似せる事は到底出来ぬ。
けれど、何が為に秀子の顔形が人殺しの牢死人輪田夏子の顔形と共に、此の先生に保存せられ、余の眼前へ持ち出されたであろう、夏子を秀子の前身だといい、秀子を夏子の後身だというのだろうか、其の様な意味にも聞こえたけれど余りの事で合点する事が出来ぬ、牢の中で死んだ夏子と、余の未来の妻として活きて居る秀子と、何うして同じである、養母を殺すほどの邪慳な夏子と一点も女の道に欠けた所のない完全な秀子と何うして同じ人間である、余は遽しく先生に問うた。
「秀子の顔形と夏子の顔形との間に何の関係があるというのです」
先生は少しも騒がぬ、少しも驚かぬ、寧ろひとしお落ち着いて、誇る様な顔附きで「是で私の手腕が分ったでしょう、斯様な事に掛けては、此のポール・レペルは今日の学者が未だ究め得ぬ所をまで究めて居ります、電気、化学、医療手術等の作用で一人の顔が、斯うも変化する事は、殆ど何人も信じません、政府と雖も信じません、信ぜねばこそ今までポール・レペルの職業が大した妨げを受けずに来たのです」余「では秀子と夏子と同じ女だと仰有るか」先生「勿論一人です、秀子が即ち夏子です。夏子が牢を出て、其のままの顔では世に出る道もない為に私へ頼み、今の秀子の姿にして貰ったのです、名を替えた通りに姿をまで変えたので」
余は只恐ろしさに襲われて、訳もなく二足三足背後の方へ蹌踉《しりぞ》いた、けれど又思えば余り忘誕《ぼうたん》な話である、頓て恐ろしさは腹立たしさとなり「エエ人を欺すにも程があります、秀子と夏子と同人だなどと誰が其の様な事を信じますものか」と叫んだ、殆どポール・レペルを攫み殺さん程の見幕で又前へ進み出た。「悪党、悪党」と罵る声は思わず余の口から洩れた、先生は怪しむ様な顔で余の顔を見「オヤ、オヤ、貴方は今まで、秀子の真の素性をさえ知らなんだのですか、秀子と夏子と同人だという事を、エ、それさえ知らずに夏子をイヤ秀子を助けたいと思い、私の許へ来たのですか。其の様な事ならば私は迂闊に此の秘密を知らせるのではなかったのです、秀子に聞き合わせた上にするのでした」余「嘘です、嘘です、夏子が牢の中で死んだ事には一点の疑いもないのです」
云い切っても先生の顔には、少し
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