事に違いない。「どうしました、先ア静かに話して下さい」と背を撫でて傷わるに、秀子「最うとても助かりません天運です、広い世界に、何で私だけ此の様な目にのみ逢うのでしょう。前には浦子さんを殺したなどという疑いを受け、今は又――今は又」と云い掛け、後の言葉は泣き声と成って了った。余「今は又何うしました、エ秀子さん又何かに疑いでも掛りましたか」秀子「掛りましたとも、ハイ私が父上を毒害したなどと云いまして」父を毒害とは何の事ぞ。余は「エ、エ」と叫んで我れ知らず秀子を推し退け「叔父の身に何か事変が有りましたか」
秀子「ハイ、私の注いで上げた葡萄酒に毒が有ったとの事で、一昨日から御病気です」余「エ、一昨日から、爾して今は」秀子「今は何の様な御病体だか、下女などの話に少しお宜しい様には聞きますけれど――私が直々に介抱して上げたいと思っても、私を其の室へ入れては又も毒薬でも用いる様に疑い、近づけてさえ呉れません、此のまま父上が若しもお亡くなりなされば、秀子の毒害の為だと云い、又お直り遊ばせば秀子を遠ざけて、毒害を続けさせなんだ為だと云います、何方《どっち》にしても私は――」余「ですが、誰が貴女を父上の室へ入れません」秀子「附いて居る看病人です、多分は警察から探偵をば看病人の様に姿を変えさせて寄越したのだろうと私は初めから疑って居りますが」余「夫にしても余り乱暴な疑いでは有りませんか、何も父上を殺すべき謂われがないのに」秀子「イイエ其の謂われが有るのだから、運の盡と申すのです。何から何まで私が父上を殺さねばならぬ様に総て仕組が行き届いて居ます。誰か私を憎む者が――イヤ真逆に其の様な人が有ろうとは思われませんけれど、有るとでも思わねば合点が行きませんもの」
余は恐ろしい夢を見て居る様な気持だ。「イエ秀子さん、誰が何と仕ようとも又運が何の様に悪かろうとも、最う私が居るなら、大丈夫です、決して貴女へ其の様な疑いを掛からせて置きは仕ません。既にお浦の事件でも貴女にアレ程重く疑いの掛かって居たのを私の言葉で粉微塵にしたでは有りませんか。少しも心配なさらずに全く私へ任せてお置きなさい」
秀子「其の様に行けば、何ほどか嬉しかろうと思いますけれど、今度の事ばかりは、何方の力にも合いません」
云う中にも余を便りにして幾分かは落ち着く様子が見える。余は何にしても叔父の容体が気に掛かるから、幾度も秀
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