な約束にせよ、真実余を嫌って居るなら承諾する筈がない、成るほど本心は生涯所天などを持つ様な安楽な事は来ぬと充分覚悟を仕て居るだろうよ、覚悟は仕て居るだろうけれど、若しも婚礼の出来る時が来れば余と婚礼すると云う積りに違いない、之を如何ぞ余たる者|豈《あ》に砕身粉骨して秀子の難を払わざる可けんやだ、余は雀躍《こおどり》して此の室を出て叔父の許に行き、未だ婚礼の時は極らぬけれど秀子と夫婦約束だけは出来たと告げた、叔父は大いに喜んで、秀子と余とを半々に此の家の相続人として早速遺言状を書き替えると云った、果たして三日と経たぬうちに其の通りに仕て了った。
 けれど秀子の災難は余の思ったより切迫して居て、又実際余の力で払い除ける事の出来ぬ様な恐ろしい秘密的の性質であった。

第四十四回 星の様な光

 余は秀子に向って、問い度い事、言い度い事、様々にあるけれど、此の日も翌日も其の暇を得なんだ。と云う訳は、首のない死骸の事件が遠近《えんきん》へ聞こえたと見え、見舞いに来る客も仲々多い、其の死骸がお浦でなかったと聞いて安心する人も有り怪しむ人も有った様子だが、兎に角是等の客の応接に秀子の手の空いた時は余が忙しく、余の暇な時は秀子が差し支えると云う有様だ、今から考えて見ると秀子の身には真に恐ろしい秘密事件が差し迫って居たのだが能くも秀子は其の心配の中で平気で客の待遇などが仕て居られた者だ、尤も客と談笑する間には夫となく心配気に見ゆる所は確かにあった。他人には分るまいが余の目には暗に分った、夫だから余は折さえ有れば慰めもし問いもしたいと唯此の様に思って居たが、此の日も暮れて早や夜の十二時を過ぎたろう、秀子は客が雑談などに夢中になって居るのを見定め、密《そっ》と客間から忍び出た。
 イヤ忍び出たのではない当り前に出たけれど余の目には忍び出る様に見えた、若しや秘密とか密旨とか云う事の為では有るまいかと、余も引き続いて出て見たが、早や廊下には秀子の姿が見えぬ、居間へ行っても居らぬ、或いは虎井夫人の許かと又其の室へ尋ねて行けば、虎井夫人さえも居らぬ、既に病気は直ったと自分では云って居ても未だ客の前へも出得ない夫人が夜の十二時過ぎに室を空けるとは、何うも尋常の事ではない、若しやと思って余は庭へ出たが、月のない夜の事とて樹の下の闇が甚だ暗く、何と見定める事も出来ぬけれど、其所此所を辿って居るうち、一
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