うちわ》を取り徐々《しず/\》と煽ぎながら少し声を低くして「君先ず此人殺しを何と思う慾徳尽《よくとくずく》の追剥と思うか但しは又―(大)左様サ持物の一ツも無い所を見れば追剥かとも思われるし死様の無惨な所を見れば何かの遺恨だろうかとも思うし兎に角|仏国《ふらんす》の探偵秘伝に分り難き犯罪の底には必ず女ありと云ッて有るから女に関係した事柄かとも思う(谷)サ、爾《そう》先《さき》ッ潜りをするから困る静《しずか》に聞《きゝ》たまえな、持物の無いのは誰が見ても曲者が手掛りを無くする為に隠した事だから追剥の証拠には成らぬが、第一傷に目を留たまえ傷は背《せな》に刀で切《きっ》たかと思えば頭には槌で砕いた傷も有る既に脳天などは槌だけ丸く肉が凹込《めりこ》んで居る爾かと思えば又所々には抓投《かなくっ》た様な痕も有る(大)成るほど―(谷)未だ不思議なのは頭にへばり附て居る血を洗い落して見た所頭の凹込んで砕けた所に太い錐《きり》でも叩き込んだ様な穴も有るぜ―君は気が附くまいけれど(大)ナニ気が附て居るよ二寸も深く突込んだ様に(谷)夫なら君アレを何で附けた傷と思う(大)夫は未だ思考《かんがえ》中だ(谷)ソレ分
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