して卓子《ていぶる》に置き其上へ羽織を脱ぎ其又上へ帽子を伏せ両肌脱ぎて突々《ずか/\》と薪水室《まかないべや》に歩み入りつ手桶の水を手拭に受け絞り切ッて胸の当りを拭きながら斜に小使を見て例の茶かし顔「お前《めえ》アノ大鞆が何時出て行たか知ないか(小)何でもお前《めや》様が出為《でさしっ》てから半時も経たんべい、独りブックリ/\言《こき》ながら出て行ッたアだ(谷)フーム何所へ行たか、目当も無い癖に(小)何だかお前様の事を言ッたアだぜ、私《わし》が廊下を掃《はい》て居ると控所の内で谷間田は好年《いゝとし》イして煽起《おだて》エ利くッて、彼奴|浮々《うか/\》と悉皆《すっか》り多舌《しゃべっ》て仕舞たと言《こ》きやがッて、エお前様|煽起《おだて》が利きますか谷間田は眼を円くし「エ彼奴が己の事を煽起が利くッて失敬な奴だ好々《よし/\》是から見ろ何も教えて遣《やら》ぬから好いワ、生意気な」と打呟《つぶや》きつゝ早々拭終り又も詰所に帰りて帽子は鴨居に掛け羽織は着、手帳紙入は懐中に入れ又「フ失敬な―フ小癪な―フ生意気な」と続け乍ら長官荻沢警部の控所に行《ゆき》たり長官に向い谷間田は(無論愛嬌顔で)先
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