ど君だから打明けるが実は髪の毛だ、夫も唯一本アノ握ッた手に附て居たから誰も知らぬ先に己がコッソリ取ッて置た」大鞆は心の中にて私《ひそか》に笑を催おし、「ナニ其髪の毛なら手前より己様《おれさま》の方が先に見附たのだ実は四本握って居たのをソッと三本だけ取て置た、夫を知らずに残りの一本を取て好い気に成て居やがる老耄《おいぼれ》め、併《しか》し己の方は若しも証拠|隠匿《いんとく》の罪に落ては成らぬと一本残して置たのに彼奴《きゃつ》其一本を取れば後に残りが無いから取《とり》も直さず犯罪の証拠を隠したに当る夫を知《しら》ないでヘンなにを自慢仕やがるんだ」と笑う心を推隠《おしかく》して「ヘヽエ、君の目の附所《つけどころ》は実に違うナル程僕も髪の毛を一本握ッて居るのをば見たけれど夫が証拠に成《なろ》うとは思わず、実に後悔だ君より先へ取て置《おけ》ば好ったのに(谷)ナアニ君などが取たって仕方が無いワネ、若し君ならば一本の髪の毛を何うして証拠にする天きり証拠にする術《すべ》さえ知らぬ癖に(大)知《しら》なくても先へ取れば後で君に問うのサ何うすれば証拠に成るだろうと、エー君、何うか聞かせて呉れたまえ極内《ご
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