から其上へヅシンと頭を突く、身体の重サと落て来る勢いでメリ/\と凹込《めりこ》む、上から血眼で降《おり》て来て抱起すまでには幾等《いくら》かの手間が有る其中に血が尽きて、膨上《ふくれあが》るだけの勢が消《きえ》たのです、背中から腰へ掛け紫色に叩かれた痕や擦剥《すりむい》た傷の有るのは梯子段の所為《せい》、頭の凹込は丸い物の仕業、決して殺した支那人が自分の手で斯う無惨な事をしたのでは有《あり》ません、何うです、是でも未だ分りませんか(荻)フム仲々感心だ、当る当らんは扨置いて初心の貴公が斯う詳しく意見を立《たて》るは兎に角感心する、けれど其丸い者と云うのは何だえ(大)色々と考えましたが外の品では有ません童子《こども》の旋《まわ》す独楽《こま》であります、独楽だから鉄の心棒が斜に上へ向《むかっ》て居ました其証拠は錐を叩き込だ様な深い穴が凹込の真中に有ます(荻)併し頭が其心棒の穴から砕《くだけ》る筈だのに(大)イヤ彼《あ》の頭は独楽の為に砕《くだけ》たのでは無く其実、下まで落着かぬ前に梯子の段で砕けたのです独楽は唯アノ凹込を拵えただけの事です(荻)フム成る程|爾《そう》かなア(大)全く爾です既に独楽が有たとして見れば此支那人には七八歳以上十二三以下の児《こ》が有ます(荻)成る程爾だ(大)此証拠は是だけで先ず留《とめ》て置きまして再び髪の毛の事へ帰ります、私しは初め天然の縮毛で無い事を知《しっ》た時、猶お念の為め湯気で伸して見ようと思い此一本を鉄瓶の口へ当《あて》て、出る湯気にかざしました、すると意外千万な発明をしたのです実は罪人の名前まで分ったと云うも全く其発明の鴻恩です、其発明さえ無けりゃ何《ど》うして貴方、名前まで分りますものか」荻沢も今は熱心に聞く事と為り少し迫込《せきこ》みて「何《ど》、何う云う発明だ(大)斯《こう》です鉄瓶の口へ当ると此毛から黒い汁が出ました、ハテなと思い能々《よく/\》見ると、何うでしょう貴方、此毛は実は白髪《しらが》ですぜ白髪を此様に染めたのですぜ、染てから一週間も経つと見え其間《そのあいだ》に五厘ばかり延びてコレ根の方は延びた丈け又白髪に成て居ます(荻)成る程白髪だ、熟《よ》く見れば白髪を染《そめ》た者だ、シテ見ると老人だナ(大)ハイ私しも初めは老人と見込を附《つけ》ましたが猶お考え直して見ると第一老人は身体も衰え、従っては一切の情慾が弱くな
前へ
次へ
全33ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング