《たがいちがい》に二本の毛を重ね一緒に二本の指で摘《つまん》で、イヤ違ます人差指を下にして其親指を上にして爾う摘むのです、夫で其人差指を前へ突出《つきだし》たり後へ引たり爾々《そう/\》詰《つま》り二本一緒の毛へ捻《より》を掛たり戻したりするのですソレ奇妙でしょう二本の毛が次第/\に右と左へズリ抜るでしょう丁度二|尾《ひき》の鰻を打違《うちちが》えに握った様に一ツは右へ抜け一ツは左りへ抜《ぬけ》て段々とソレ捻れば捻るほど、ネエ、奇妙でしょう(荻)成る程奇妙だチャンと重《か》さねて摘んだのが次第/\に此通り最う両方とも一寸ほどズリ抜《ぬけ》た(大)夫《それ》は皆|根《もと》の方へずり抜るのですよ、根が右に向《むかっ》て居るのは右へ抜け根が左へ向《むい》て居るのは左へ抜けて行くのです(荻)成る程|爾《そう》だ何《ど》う云う訳だろう(大)是が大変な証拠に成るから先ず気永くお聞なさい、斯様にズリ抜ると云う者は詰り髪の毛の持前です、極々《ごく/\》度の強い顕微鏡で見ますと総て毛の類には細かな鱗《うろこ》が有ります、鱗が重なり重なッて髪の外面《うわべ》を包んで居ます丁度筍の皮の様な按排式《あんばいしき》に鱗は皆根から梢《すえ》へ向て居るのです、ですから捻《より》を掛たり戻したりする内に鱗と鱗が突張り合てズリ抜《ぬけ》るのです(荻)成る程|爾《そう》かな(大)未だ一ツ其鱗の早く分る事は髪の毛を摘んで、スーッと素扱《すご》いて御覧なさい、根《もと》から梢《すえ》へ扱《こ》く時には鱗の順ですから極《ごく》滑《なめら》かでサラ/\と抜けるけれど梢より根へ扱く時は鱗が逆ですから何と無く指に膺《こた》える様な具合が有て何《ど》うかするとブル/\と輾《きし》る様な音がします(荻)成る程|爾《そう》だ順に扱けば手膺《てごたえ》は少しも無いが逆に扱けば微かに手膺えが有る(大)サア是で追々に分ります私しは此三筋の髪の毛を其通りして幾度も試してみましたが一本は逆毛ですよ、是は最《も》う死骸の握って居る所を其儘取ッて堅く手帳の間へ挿み大事にして帰ッたのだから途中で向《むき》の違う事は有ません此三筋を斯う握って居たのです、其中でヘイ此一本が逆髪《さかげ》です外の二本とは反対に向て居ます(荻)成る程(大)サア何うです大変な証拠でしょう(荻)何故―(大)何故だッて貴方、人間の頭へは決して鱗の逆に向た毛の生《
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