て其頃の戯作者則ち小説家に書かせました。所が、当時の戯作者は爾ういう物語を書く時には、何時《いつ》も編年体であって其人物の生立《おいたち》から筆を立てゝ、事実を順序正しく書くものですから、最初から悪人、善人、盗賊と知れて了って、読者を次へ/\と引く力が無い。即ち面白い縺《もつ》れ合った事を真先に書き出して置いて、乱れた環《たまき》の糸口を探るように、其の原因に遡って書くと云うことが出来なかったのでした。遂に其の小説は読者の非難が多くて中止をしなければ為らぬ事になって、それで私に書けと云われたものでありましたから、然らばとて始めて是に著手して見ました。私は全然編年体[#「編年体」は底本では「編作体」]を改め、先ず読者を五里霧中に置く流でやりましたが、意外にも大当りを致しました。是が翻訳小説の処女作で、題目は「法廷の美人」、前に中止した方は「二葉草《ふたばぐさ》」と申しました。それから今日《こんにち》(明治三十八年二月頃)までに翻訳した小説は七十余種に上って居ります。
[#地付き](春陽堂『明治大正文学全集』第八巻昭和四年二月所収)



底本:「日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 
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