我れに復りて其様な筈は有ません必ず誰かの間違いでしょうと言ました、検査官が推返《おしかえ》して決して人違いで無いと答えますと夫《それ》では何の廉《かど》で捕縛しますと問返しました、オイ何の廉などゝ其様な児供欺《こどもだま》しを云《いっ》ても駄目《だめ》だよ其方の伯父《おじ》は何《ど》うした、既に死骸が其筋の目に留り其方が殺したと云う沢山の証拠が有る其方に於いて覚え有う、と詰寄る検査官の言葉を聞て驚いたの驚か無いのと云て全《まる》で度胸を失ッて仕舞ました、何か言《いお》うとするけれど其言葉は口から出ず蹌踉《よろめ》いて椅子に倒れると云う騒ぎです、検査官は彼れの首筋を捕えて柔かに引起し今更彼是れ云うても無益だ有体《ありてい》に白状しろ白状するに越した事は無いと諭《さと》しました、彼れは早や魂も抜けた様に成り馬鹿が人の顔を見る様に検査官の顔を見上てハイ何も彼も白状致します全く私しの仕《し》た業《わざ》ですと答えました」警察長は聞来りて「能《よ》く遣《やっ》た、能く遣た」と再び賛成の意を示すに巡査は全く勝誇りて「私し共は素《もと》より出来るだけ早く事を終る所存です、成る可く人を騒がすなと云うお
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