oかけて行った。
彼女はその一カ月前に、その母が半年ばかりの予定で郷里に帰った時にも、どうしても一緒に行くことを承知しないで、社の二階に僕と二人きりで残っていたほどの、パパっ子なのだ。そして今でもまだ僕は、時々彼女を思いだしては、なぜ一緒に連れて来なかったのだろうなぞと、理性の少しも許さない後悔をしている。
子供のことはそれできまった。あとは僕の顔がちょっとも見えないことの口実だ。それは、こんどもまた、病気ということにした。そして多少それを本当らしく見せるために、毎朝氷を一斤ずつ買うことにした。
「それも尾行を使いにやるんですね。」
そんなことにはごく如才のないMがそう発案して、一人でにこにこしていた。
家からつい近所までKが一緒に来て、そこから僕は自動車で市内のある駅近くまで駆けつけた。そしてその辺で小さなトランク一つとちょっとした買物をして、急いで駅の中へはいって行った。もう発車時刻の間際だったのだ。
僕はプラットホームを見廻した。が、僕の荷物のふろしき包みを持って来ている筈の、Wの姿が見えなかった。待合室の中にでもはいっているのだろうと思って、その方へ行こうとすると、
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