セい聞かして、尾行の口車に乗らせないようにしようと主張した。しかし僕は利口になっているだけそれだけ安心ができないと思った。そして僕が出る日の朝、Mに連れさして、同志のLの家へ遊びにやった。そこには魔子より一つ二つ下のやはり女の子がいた。
「こんどは魔子の好きなだけ幾つ泊って来てもいいんだがね。幾つ泊る? 二つ? 三つ?」
 僕は子供の頭をなでながら言った。その前に二つ泊った翌朝僕が迎いに行って、彼女が大ぶ不平だったことがあったのだ。そしてこんどもやはり、「二つ? 三つ?」と言われたのに彼女は不平だったものと見えて、ただにこにこしながら黙っていた。
「じゃ、四つ? 五つ?」
 僕は重ねて聞いた。やはりにこにこしながら、首をふって、
「もっと。」
 と言った。
「もっと? それじゃ幾つ?」
 僕が驚いたふりをして尋ねると、彼女は左の掌の上に右の手の中指を三本置いて、
「八つ。」
 と言いきった。
「そう、そんなに長い間?」
 僕は彼女を抱きあげてその顔にキスした。そして、
「でも、いやになったら、いつでもいいからお帰り。」
 と附け加えて彼女を離してやった。彼女は踊るようにして、Mと一緒に
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