ーロッパへ行ったことのある誰とも話はしなかったが、支那ではほやほやのフランス帰りの幾人かの人達と会った。
「なあに、フランスへあがりさえすれば、もう大丈夫ですよ。」
 その人達はみな同じようにそう言った。そして旅券なぞも、途中はもとより、マルセイユ上陸の時ですら、なければなしで通れるほどに世話がない、という話だった。
 もっとも、とにかく僕は、国籍と名だけはごまかしたが、しかし正真正銘の僕の、しかもその時の着のみ着のままの風の写真をはりつけた、立派な旅券を持っていた。その旅券からばれるというようなことはまずないものと安心していた。現にフランスの領事館でも、またイギリスの領事館でも、僕自身が出かけて行って、何のこともなくヴィザを貰って来たのだ。その旅券を、わざわざ余計な手数をかけてまで、見せずに通すほどのこともあるまいと思った。
 途中での僕の心配はもっとほかのことだったのだ。そしてそれはあらかじめ何ともすることのできないことなので、もし間違ったら仕方がないとあきらめるよりほかに仕方がなかった。
 しかし、それが無事に行って、フランスにはいりさえすればまず大丈夫だということは、僕も日本に
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