も思いだしはしなかった。
 そんなことじゃないんだ。ただ春の心なのだ。本当にのどかな、のんびりとした呑気な気持なのだ。いつも忙がしい、そして大勢の人との交渉の多い生活をしている僕には、実際何の心配もないたった一人きりの牢やの生活ほどのうのうするところはないのだ。もっとも、それがあんまり長かったり、時々すぎたりしては、そうばかりも行くまいが。ことに春の日の牢の中はいい気持だ。そして、それが、ちびりちびりのヴェン・ブランでなおさらにいい気持にあおられていては堪らない。へたな歌もできよう。呑気なことも考えていられよう。
 が、これは出るとすぐ、仲間の新聞で知ったのだが、その頃この牢やでこんな呑気をしていては、知らんこととは言いながらはなはだ相済まなかったのだ。
 僕がまだフランスに来る途中の船にいた頃、共産党の首領カシエン以下十数名のものが、ルール問題の勃発とともに拘禁された。そしてその中には、ドイツの共産党代議士何とかというのと、もう一人のやはり何とかいうドイツの共産主義者とがいた。みんなやはり僕と同じこのラ・サンテの牢やにいたのだ。
 ところが僕がはいってから、カシエン以下のフランスの共
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