鰍ヨ行ってからのことなのだ。途中でのことはほかの記事にちょいちょい書いてある。)
[#ここで字下げ終わり]

 某月某日――これがあんまり重なっては読者諸君にはなはだ相済まないのだが、仕方がない、まあ勘弁して貰おう――どこをどうしてだか知らないが、とにかくパリに着いた。
 コロメルの宛名の、フランス無政府主義同盟機関『ル・リベルテエル』社のあるところは、パリの、しかもブウルヴァル・ド・ベルヴィル(強いて翻訳すれば「美しい町の通り」)というのだ。地図を開いて見ても、かねてから名を聞いているオペラ座なぞのある大通りと同じような、大きな大通りになっている。
 いずれその横町か屋根裏にでもいるだろう、と思って行って見ると、なるほど大通りは大通りに違いないが、ちょうどあの、浅草から万年町の方へ行く何とかいう大きな通りそのままの感じだ。もっとも両側の家だけは五階六階七階の高い家だが、そのすすけた汚なさは、ちょっとお話にならない。自動車で走るんだからよくは分らないが、店だって何だか汚ならしいものばかり売っている。そして通りの真中の広い歩道が、道一ぱいに汚ならしいテントの小舎がけがあって、そこをまた日
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