ヘどこにも見当らない。そして最後に、ようやく、自分でその日本人に会って見る決心をした。
「何しろ、顔だの服装だのをいろいろと細かく聞いて見ても、ちっともあなたらしくないんですからね。」
 Mは最後にこう附け加えて、そのちっとも僕らしくなくなっているという顔を、今さらのようにまた見つめ直した。
 Mは、Lのところへ行こうといって、さっきの十五番の家へ案内した。
 Lの室にはもう五、六人つめかけて僕を待っていた。その中で一番年とったそしてからだの大きな、東洋人というよりもむしろフランスの高級の軍人といった風の、口髯をねじり上げてポワンテュの顎鬚を延ばした、一見してこれがあのLだなと思われる男に、僕はまず紹介された。はたしてそれが、日本でも有名な、いわゆる(四字削除)のLだった。
「日本人とこうして膝を交えて話しするのは、これが十幾年目(あるいは二十年目と言ったかとも覚えている)です。あるいは一生こんなことはないかとも思っていました。」
 Lは一応の挨拶がすむと、Mの通訳でこう言った。Lは軍人で、朝鮮が日本の保護国となった最初からの(九十五字削除)。

 こうして僕は一時間ばかりLと話しした
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