ノ、さらに思想上の差違がだんだん深くなっていたのだ。そして堺や山川はMのことを僕に話さず、僕もまた二人にそのことは話さなかった。Mが鼻であしらわれたように、僕も鼻であしらわれるだろうことをも恐れたのだ。そしてもし事がうまく運べば、帰って来てから彼等に相談しても遅くないと思った。
約束の十月になった。僕はひそかに家を出た。その時のことは前に言った。
上海へ着いた時には、あらかじめ電報を打って置いたのだから、誰か迎いに来ていると思った。が、誰も来ていない。仕方なしに僕は、税関の前でしばらくうろうろしている間にしきりに勧められる馬車の中に、腰を下ろした。
馬車は、まだ見たことはないがまったくヨーロッパの街らしいところや、話に聞いている支那の街らしいところや、とにかくどこもかも人間で埋まっているようないろんな街を通って、目的の何とか路何とか里というのに着いた。僕はこの何とか路何とか里という町名だけ支那語で覚えて来たのだ。
尋ねる筈の家は二軒あった。同じ何とか里の中の、たとえば、十番と十五番とだ。最初は十番の方へ行った。そこにMが住んでいる筈なのだ。が、そんな人間はいないと言う。で、も
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