窒「。船の出るまでキャビンの中に閉じ籠っているのも癪だし、僕はよほどの自信をもって、喫煙室とデッキの間をぶらぶらしていた。そして一度は、私服らしい三、四人のもののほかは誰もはいっていなかった喫煙室に行って、彼等の横顔をながめながら煙草をふかしていた。
船は門司を通過して長崎に着いた。そこでもやはり、二人の制服と四、五人の私服とがはいって来た。そして乗客の日本人を一人一人つかまえて何か調べ始めた。日本人といっても、船はイギリスの船なのだから、二等には僕ともで四人しかいないのだ。僕の番はすぐに来た。が、それはむしろあっけないくらいに無事に過ぎた。そして彼等は一人のフィリッピンの学生をつかまえて何やかやとひつっこく尋ねていた。
上海に着いた、そこの税関の出口にも、やはり私服らしいのが二人見はっていた。警視庁から四人とか五人とか出張して来ているそうだから、たぶんそれなのだろう。
僕は税関を出るとすぐ、馬車を呼んで走らした。そしてしばらく行ってから角々で二、三度あとをふり返って見たが、あとをつけて来るらしいものは何にもなかった。
三
最初僕はこの上海に上陸することが一番難関だ
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