あまりになる胡麻塩の太い口髯だけ厳めしそうに延ばして、きたない背広のぼろ服の胸に青だの赤だのの略章の勲章を七、八つならべていた。細君もきたない風の、やはり品も何もない顔の、お婆さんだった。そして、その息子は、大ぶ低能らしく、いつも口をぽかんと開いていた。
 この三人はいつも三等のデッキで籐椅子の上に横になっていたが、ある日、お爺さんが僕の前へ来てこんにちはと日本語で挨拶して、あとは何だか分らないロシア語でぺちゃくちゃとやった。が、しきりに胸の勲章を指さしては何か言っているようなので、よく注意して聞くと、ヤ・ヘロ、ヤ・ヘロという言葉が時々繰りかえされる。ヤは俺で、ヘロは英雄だ。僕も仕方なしに、ダ・ダ・ヴィ・ヘロ(そうです、あなたは英雄です)とやってやった。それからなおよく聞いて見ると、ゲネラル(将官)で、日露戦争にも出たと言って、たぶんその時に貰った勲章なのだろう、胸の略章の一つを指さして見せた。
 あとでペチカに聞くと、実際ヘロはヘロで、一兵卒から将官にまでなって、豪勇無双なのだという。が、ペチカの連中は誰もこのヘロのことなぞは相手にしていなかった。
 相手にしないと言えば、ユダヤ人に
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