ちゃ》の自動車だの馬車だの馬だの獅子だのを乗せて、騒々しい楽隊の音と一緒に廻らしている。そして、いい年をした大人がそれに乗っかって喜んでいる。下が小さな船の形をしたブランコがあって、そこへ若い男と女とが乗って、その船がひっくり返りそうになるまで振っている。大きな輪のまわりに籠が幾つもぶらさがっていて、そこへ一人一人乗って、輪が全速力でグルグル廻る。前の籠と後の籠とがぶつかり合う。みんなキャッキャッと声をあげて喜んでいる。往来に人を立たして置いてパッと写真をとる大道写真師もいる。
 そしてこの連中がみな、一団ずつ、電車の小さな箱くらいの車をそばに置いて、その中に世帯を持っている。この車でフランスじゅうをあるいはヨーロッパじゅうを歩き廻っているのだ。
 僕は前に浅草と言ったが、それよりもむしろ九段の祭りと言う方が適当かも知れない。もっとも僕はもう十年あまりも、あるいはそれ以上にも九段の祭りは知らないのだが。
 そこへうじょうじょと、日本人よりも顔も風もきたないような人間が、ちょっと歩けないほどに寄って来る。実際僕はヨーロッパへ来たと言うよりもむしろ、どこかの野蛮国へ行ったような気がした。
 そしてその後、日本の浅草よりももっとずっと上等の遊び場へ行って、そこの立派な踊り場やキャフェの中にも、やはりこの玉転がしや文《ぶん》まわしがあるのにはさらに驚いた。
 そしてさらにその後、リヨンで、町の人達がよく遊びに行くリイル・バルブへ行った。翻訳すれば羊の鬚島だが、リヨンの町の真ん中を通っているサオヌ河の少し上の、ちょっと向島というようなところだ。が、そこには白鬚様があるのでもなし、ただ小さな島一ぱいに、パリの貧民窟のと同じドンチャンドンチャンがあるだけの話だ。
 それから、このリヨンの停車場前の広場が何かで大にぎやかだというので、ある晩行って見るとやはり同じドンチャンドンチャンと、玉転がしと文まわしと鉄砲とだ。そしてそこをやはりパリのと同じように、五フランか十フランかの安淫売がぞろぞろとぶらついている。
 フランス人の趣味というものはこんなに下劣なものだろうか。



底本:「大杉栄全集 第十三巻」現代思潮社
   1965(昭和40)年1月31日発行
※本作品の冒頭部分は、山根鋭二さん入力、浜野智さん校正ですでに公開してきた。ただしこれは抄録であるため、「パリの便所」以降を、kompassさんに入れていただいた。既登録部分も、kompassさんが入力底本とされた「大杉栄全集」と対照し、あらためて校正した。
入力:山根鋭二、kompass
校正:浜野智、小林繁雄
2001年11月27日公開
2005年12月7日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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