ワったくと言ってもよかったかも知れない、共産主義に傾いていたのだ。
が、堺や山川の腹の中には、それよりももっと大きな、あるものがあったのだ。それは危険の感じだ。(二十一字削除)、ということには、まかり間違うと内乱罪にひっかけられる恐れがある。これはその当時僕等がみんな持っていた恐怖だ。そしてこの恐怖が、堺や山川をして、上海の同志等の提案にまるで乗らせなかった、一番の原因なのだ。
Mもそのことは十分に知っていたようだった。そしてその使命を果たすことのできない絶望とともに、日本のいわゆる(十四字削除)らしいかの絶望をもひそかに持っているようだった。彼自身も、見つかればすぐ捕まる、そして幾年の間か分らない入獄の危険を冒してやって来たのだ。そして日本のいわゆる同志は誰一人その話に見向いてもくれないのだ。そしてMはその会議の計画を僕に話しするのにも、最初から僕に正面から加盟を求めるというよりも、むしろごく臆病に、まるで義理の悪い借金にでも来たかのようなおずおずした態度で、まず僕の腹をさぐって見るような話しぶりであった。そして僕がその廻りくどい長い話を黙って一応聞いた上で、「よし行こう」と一言言った時には、彼はむしろ自分の耳を疑っているかのようにすら見えた。
実は、この上海行きのことは、その二年ほど前にも僕に計画があったのだった。僕は、日本での運動の困難を感ずるたびに、この上海を考えないことはできなかった。支那の同志との連絡を新しくすることを思わない訳には行かなかった。そして僕は、いよいよそれを実行する間際になったある日、山川と荒畑とにその計画を洩らした。堺にも山川を通じて、その席に出てくれるよう頼んだのだが、堺はそれに応じなかった。堺と僕との間にはその少し以前からある個人的確執があったのだ。山川と荒畑とはただ僕の言うことだけをごく冷淡に聞いてくれただけだった。二人とも、やはりその少し以前から、僕とは大ぶ冷淡な仲になっていたのだ。もっとも、僕のこの計画は中途で失敗して、まだ日本を去らない前に再び東京に帰って来ることを余儀なくされたに過ぎなかった。
社会主義同盟は、いろんな一般的の目的を持っていたと同時に、十数年以前からのこれらの親しかった旧い同志等の確執や冷淡を和らげるという、特殊の一目的をも持っていた。が、それは無駄だった。僕等の間には、いろんな感情の行き違いの上
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