プ!」と怒鳴りながら、ガラガラ車を押して、そのいわゆるスープをくばって歩く。アルミのどんぶりの中に、ちょっと塩あじのついた薄い色の湯が一ぱいはいっていて、上に膏《あぶら》がほんの少々ながらきらきら浮いてい、下には人参の切れっぱしやキャベツの腐ったような筋が二つ三つ沈んでいる。これも初めの日にはちょっと甜[#「甜」はママ]めて見たきりで止した。
さらに午後の三時から四時頃になると、やはり同じようなどんぶりに、こんどは豆の煮たのを持って来た。そしてその次の日にはジャガ芋の煮たのを持って来た。僕は豆も芋も好きなので、これだけは初めから食った。そしてさらにその次の日には、米のお粥の中に牛肉のかなり大きな片がはいっているのを持って来た。が、その肉はとても堅くて、噛んだあとは吐き出さずにはいられなかった。
このお粥と肉は一週に二度ついた。
これが牢やの御馳走の全部なのだ。最初の間はそんな風でろくに食べずにいたが、しかしそれでは腹がへって仕方がないので、辛棒しいしいだんだんに食って行った。そして終いには、一日分の筈の黒パンも来るとすぐにみな平らげてしまい、二度のどんぶりも綺麗に甜[#「甜」はママ]めずってしまったが、やはりまだそれだけでは腹がへって仕方がなかった。そしてお湯一つくれないので、つい幾度となく水道の水をがぶりがぶりとやっていた。
六
はいった翌日、トレスという弁護士から手紙が来た。共産党のちょっとした名士で、いろんな革命派の人々の弁護をいつも引受けている弁護士だ。僕も名だけは知っていた。コロメルが頼んだのだ。
「予審判事へ僕が君の弁護を引受けたことを知らしてくれ。そしてもし予審廷へ不意に呼ばれるようなことがあったら、僕が立合いの上でなければいっさい訊問に応ずることはできないと言え。」
この手紙は封じたままで僕の手にはいった。僕はそれも面白いと思ったが、それよりもなおこの「立合いの上でなければ」というのが面白いと思った。
僕はすぐ判事と弁護士とに手紙を書いた。判事の方のは開き封のままだが、弁護士への分はやはり封じて出せとのことだった。
その後トレスが面会に来たが、弁護士との面会は監視の役人なしだった。お互いに何を話そうと、何を手渡ししようと、勝手なのだ。
これなら、金さえあれば、いくらでも、偽証もでき、また証拠の湮滅もできそうだ。泥棒がその盗
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