アともあろう。しかし、こんな理屈を言い出せば際限がないからいい加減に切りあげるが、とにかく僕のこの事実とおよびそれに対する僕の(五字削除)とは、断乎として君の要求を斥けるに足るの力があったのだ。
けれども君は、僕がかく君の要求を斥けながらも、なお君に対して深い愛を抱いていることを、認めない訳には行かなかった。また君自身としても、もし君の要求が容れられなければ僕との関係を絶つと決心したものの、なお僕に対して抱いている君の深い愛を、認めない訳には行かなかった。そして、この現実の方が君自身の真実ではあるまいかという考えが漸次に頭をもたげて来て、ついにはそこに君の全身を投ずるの冒険をあえてさせるまでに進んで来さえすれば、僕が他の女を棄てるかあるいは他の女が僕を去るか、いずれにせよ君に都合のいい何等かの事柄が起って来るだろうという、多少の予想があったけれども、君は、かくしてまったく僕に君の身を投じて来ると同時に、本当の現実の人となった。もしくは、まったく新しい現実の人となった。
君は僕に保子のあることも、神近のあることも、僕に対する愛の幻惑やまたは仕様事なしのあきらめからではなく、君自身の深
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