トしまう。
 彼女は号哭する。そして僕もまた、彼女の側に倒れて、歔欷する。
 野枝さん。
 かくして僕は、彼女がしきりに確かめたがっている、彼女の心の奥底に感じている僕の愛を、僕自ら打ち破ってしまうのだ。そして彼女のいわゆる盲目と醜悪とを、ますます重ねしめかつますます増さしめて行くのだ。
 野枝さん。
 本当に僕は、君の言うように、しばしば、保子によく話しすることが面倒になるのだ。どうでもいいというような態度に出るのだ。
 野枝さん。
 本当によく僕を鞭うってくれた。今から僕は四谷の家へ行って、そしてあしたは、君の足下に膝まずきに行く。



底本:「日本の名随筆47 惑」作品社
   1986(昭和61)年9月25日第1刷発行
   1991(平成3)年4月25日第8刷発行
底本の親本:「大杉栄全集 第三巻」現代思潮社
   1964(昭和39)年4月発行
入力:渡邉つよし
校正:門田裕志
2002年11月12日作成
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