ウんの上に大変な傷を与えるようなことになるとすれば、これは考えなければならないことであるかも知れません。けれども、私たちの関係は知らない人同士で認め合うというような、いい加減なことは許されないだろうと思われます。今会うことができないとしても、一度はぜひお目に懸からなければなるまいと思います。」
 すると、翌日の手紙に、追っかけるようにして、君はさらに言う。
「保子さんのことを昨日の手紙に書きましたが、あれはとり消しましょう。今日安成さんから少しばかりお話しを伺いました。どうも今お会いするのは無駄なように思いますから。もしあなたの保子さんに対するお考えが委しく伺えれば本当にいいと思いますけれども。
「今朝から私はいろいろに考えていましたの。私の保子さんと、神近さんとに対する本当の心持を知りたいと思いましてね。ですけれど、私はやはり、どちらの関係もあなたの生活の一部として是認するだけで、あなたと保子さん、あなたと神近さん、それからあなたと私、というふうに切り離しては考えられないのです。要するに、私が、保子さんとあるいは神近さんとあなたとの間のことについて、お互いに理解し合ったり認め合ったりするということの方を現在の一番大きなことのように考えていたのは、まだ本当に自分であなたと私との関係がのみ込めなかったというふうに考えられて来ました。本当に平凡な事実なのですけれども。保子さんといい、神近さんといい、私といい、ただあなたを通じての交渉なのですから、あなたに向っての各自の要求がお互いにぶっつかりさえしなければ(何だか他に言い方があるような気がしますが)、みんなインディファレントでいられる筈だと思います。そうすれば、なお一層よくあなたを理解し合おうとするみんなの努力があれば、そこで初めて完全に手を握ることができるのだと思います。
「そうして今、神近さんと私とは、というよりも私の神近さんに対する気持は、この第一段にいるのだと思います。保子さんに対する私の気持は、第二段にまで進みかけているのですが、保子さんはまだ恐らくは第一段にまでも来てはいらっしゃらないように思われます。そこで私の保子さんに持つ心持は、保子さんには無理すぎることになって来ます。で、今しばらくはインディファレントでいます。あるいはそれ以上に進まないかとも思われます。しかし私としては、保子さんとも神近さんとも、本当
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