て分った。自分とは違う人間に対する、理解とか同情とかいうようなことも初めて分った。客観はいよいよますます深く、主観もまたいよいよますます強まった。そしていっさいの出来事をただ観照的にのみ見て、それに対する自己を実行の上に現すことのできない囚人生活によって、この無為を突き破ろうとする意志の潜勢力を養った。

 僕はまた、この「続獄中記」を、「死処」というような題で、僕が獄中生活の間に得た死生問題についての、僕の哲学を書いて見ようかとも思った。現に、一と晩夜あけ近くまでかかって、その発端だけを書いた。
 東京監獄で押丁を勤めていて、僕等被告人の食事の世話をしていた、死刑執行人についての印象。友人等の死刑後のその首に残った、紫色の広い帯のあとについての印象。千葉監獄在監中の、父の死についての印象。一親友の死についての印象。また、牢獄の梁の上からぽたりぽたりと落ちて来る蠅の自然死についての印象。一同志の獄死についての印象。一同志の出獄後の狂死についての印象。その他数え立てればほとんど限りのない、いろいろな深い印象、というよりはむしろ印刻が、死という問題についての僕の哲学を造りあげた。

 実際
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