、友達の乞食の父はなかった。そのために僕は、軍人というものの本当の性質が分るまでには、ずいぶん余計な時間を費やした。それがその時の僕にどれほどに口惜しかったか。
が、当時のこの創作欲は今に到ってまだ果されない。というよりはむしろほとんど忘れ果てて、社会評論とも文学評論ともつかない妙な評論書きになってしまった。そして今ではまた、こんな甘い雑録に、ようやく口をぬらしている。
監獄人[#「監獄人」は太字]
しかし、今だってまだ、多少の野心のないことはない。現にこの「獄中記」のごときは、この雑誌に書く前には、「監獄人」とか「監獄でできあがった人間」とかいうような題で、よほどアンビシャスな創作にして見ようかという気もあったのだ。
僕は自分が監獄でできあがった人間だということを明らかに自覚している。自負している。
入獄前の僕は、恐らくはまだどうにでも造り直せる、あるいはまだ碌にはできていなかった、ふやふやの人間だったのだ。
外国語学校へはいった初めの頃には、大将となって何とかすることができなければ、敵国に使して何とかするというような支那の言葉に囚われて、あるいは外交官になって見ようかと
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