でを読み通した。ちっとも分らんのを二度も三度も読み通した。そして、そうこうしている間に、原書の辞書の方もいい加減分るようになり、子供雑誌も当てずっぽうに判読するようになった。
学校にはいった幾日目かの最初の土曜日に、それまでいろんな世話をしてくれた三年のある生徒から、あしたは「国」の下宿に集まるようにと言われた。
元来僕にはこの「国」という観念が少しもなかった。讃岐の丸亀に生れてそこを少しも知らず、尾張に本籍があってそこも碌に知らず、そして「国」というような言葉もあまり聞いたことがなかった。今までいた新発田では、ほとんどみんなが新発田かあるいはその附近の人であった。僕はそれらの人と一緒に自分を北越男子などと言っていた。しかしその越後に対しても「国」というような感じはまるでなかったのだ。
で、この「国」の下宿というのも、よくはその意味が分らなかった。しかし、上官の言うこと、古参生の言うことはよく聞かなければならないとは、何よりも先きに教えられたことであった。そしてこの古参生には、敬礼は勿論のこと、ちょっともの言うのでも不動の姿勢をとらなければならなかったのだ。僕は気をつけの姿勢の
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