、下の二、三段のほかはみなぼんやりして、上があいているのか下があいているのかよく分らなかった。
 若い軍医は首をかしげて奥の方の室へはいって行った。そして、僕が子供の時から何かの病気の際にはいつも世話になっていた、平賀という一等軍医を呼んで来た。
「これはことしはどんなことがあっても入れなけやならないんだ。」
 平賀軍医はそう言いながら、僕の目の検査をし直した。そして暗室へ連れて行ったり、いろんな眼鏡をかけさして見たりして、要するに合格にしてしまった。
 学科の方は、別に何の勉強もしなかったのだが、高等小学校卒業程度の試験なんだから、やすやすとできた。
 そして官報で及落が発表される少し前に、山田の伯父から、「サカエゴウカクシユクス」という電報を受取った。
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自叙伝(四)

   一

 幼年学校は、東京に中央幼年学校というのがあって、そして当時の六個師団の各師団司令部所在地に地方幼年学校というのがあった。中央は本科で地方は予科だ。ある師団、たとえば第一師団の管轄に本籍を持っているものは、その師団司令部所在地の、すなわち東京の地方にはいった。そしてそこで三年間いわゆる軍人
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