。鉢の中の水にもまんまるい月が映っていた。が、その水を汲もうとすると、急にバラバラと大粒の雨が降って来た。可笑しいなと思って顔をあげると、雨も何にも降っていないで松の木の間にはやはりまんまるい月があかあかと光っていた。伯母さんは再び手洗鉢の方へ手をやった。すると、急にまた、バラバラと降って来た。伯母さんは恐ろしくなって、そのまま、寝床へ逃げて帰った。
 翌晩、伯母さんはまた夜遅く目がさめた。そしてまた便所へ行きかけた。障子をあけた拍子に伯母さんの足もとに、何だか重そうなものがバタンと落ちた音がして、それが向うの方へころころと転がって行った。伯母さんは気味悪がりながら、暗をすかしてその転がって行くのを見ていると、それが真暗な中にはっきりと大きな人の首に見えた。伯母さんはそのままキャッと叫んでそこに倒れてしまった。
 それから二日目か三日目の晩に、伯母さんは、こんどは大入道が突っ立っているのを廊下で見た。
 山形家は大騒ぎになった。もといた家の近所の、町の若衆が四、五人泊りに来た。みんなは樫の棒を一本ずつ横において夜じゅう飲みあかした。それで二晩三晩はお化が出なかった。が、その若衆連が帰る
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