の味方の軍隊まで伝令に行った。敵の砲弾はますます花火のように散る。味方からの弾丸もますます霰のように飛んで来る。父はその間を二人の騎兵を連れて駈けて行った。が、その一人はすぐに倒れてしまった。そして父の馬もまた続いて倒れてしまった。父は仕方なしにもう一人の騎兵をそこに残して、その馬を借りてまた駈け出して行った。
「それで首尾よく任務は果したんだそうだがね、可哀そうにお馬は、お腹と足と四つも弾丸を受けて、その場で死んでしまったんですとさ。お父さんのお身代りをしたんだわね。」
 母はこう言ってまた大きな涙をぽろぽろと流した。馬丁のかみさんも女中もまた一緒になって泣いた。しかし僕は、あの馬が父の身代りをしてくれたのかと思うと、何だかこう非常に勇ましいような気がして、どうしても泣けなかった。
 父が凱旋して来てから、ある日家で、その当時の同じ大隊の士官連が集まって酒を飲んだことがあった。
「奥さん、この男がその時に即死の電報のあった男ですがね。その筈ですよ。今でもまだこんな大きな創が残っているんですからね。」
 もう大ぶ酒がまわった頃に、一人の士官がもう一人の士官の肩を叩いて言った。そして、

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