だけどもう今日は上りはないわ。」
彼女はそう言って、一人でどこかの宿屋に泊って明日帰るからと言いだした。
僕は彼女を強いて、もう一度日蔭に帰らした。いっそ、三人でめいめいの気まずい思いを打明け合って、それでどうにでもなるようになれと思ったのだ。が、こうして彼女が帰ると、室の空気は前よりももっといけなかった。そして三人とも、またほとんど口をきかずに、床をならべて寝た。
神近も伊藤もほとんど眠らなかったようだ。が、僕は風邪をひいた上に夜ふけてそとでをしたので、熱が大ぶ高くなって、うつらうつらと眠った。そして時々目をさましては彼女等の方を見た。神近はすぐ僕のそばに、伊藤はその向うにいた。伊藤は顔まで蒲団をかぶって、向うを向いてじっとして寝ていた。僕がふと目をあけた時、僕は神近が恐ろしい顔をして、それを睨んでいるのをちらと見た。
「もしや……」
とある疑念が僕の心の中に湧いた。僕は眠らずにそっと彼女等を窺っていなければならないときめた。が、いつの間にか熱は僕を深い眠りの中に誘ってしまった。
四
目をさました時にはもうかなり日が高かった。神近も伊藤も無事でまだ寝ていた。僕はほ
前へ
次へ
全234ページ中210ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング