当に栄さん、私あなたをたった一人の兄さんと思っていますから、どうぞそれだけ忘れないで下さいね。」
僕は彼女とほとんど手を握らんばかりにして、また近いうちに会う約束で別れた。
その翌日、隅田の葬式があったのだが、僕は着て行く着物も袴も何にもなし、また借りるところもないので、わざと遠慮して、そこから余り遠くない麻布の神近の家で一日遊んで暮した。
それから幾日目だったか、ある日、礼ちゃんが麹町の僕の下宿に訪ねて来た。
いよいよあすとかあさってとか、隅田の郷里に帰るので、牛込のある親戚へ用のあったのを幸いに、内緒で立ち寄ったとのことだった。話はやはり、いつかの彼女の家での話を、もう少し詳しくして繰返したに過ぎなかった。が、そうして彼女と話している間に、僕は幾度彼女の手を握ろうとする衝動に駆られたか知れなかった。
しかし、彼女もいつまでそうしていられる訳でもなく、また僕ももう芸術倶楽部へ行く時間が迫っていたので、下宿を出て、一緒に倶楽部のすぐ近くまで行った。そして無事に、お互いに「ご機嫌よう」と言って別れてしまった。
四
順天中学校というのは、もっともほかにもそんなのが幾
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