したかというようなことはまるで知らなかった。
 この盲の手をほんの偶然に手引してくれたのが万朝報なのだ。僕はこの万朝報によって初めて、軍隊以外の活きたいろんな社会の生活を見せつけられた。ことにその不正不義の方面を目の前に見せつけられた。
 しかしその不正不義は僕の目には、ただ世間の単なる事物として映り、単なる理論としてはいったくらいのことで、それが僕の心の奥底を沸きたたせるというほどのことはなかった。それより僕はその新聞全体の調子の自由と奔放とにむしろ驚かされた。そしてことに秋水と署名された論文のそれに驚かされた。
 彼の前には、彼を妨げる、また彼の恐れる、何ものもないのだ。彼はただ彼の思うままに、本当にその名の通りの秋水のような白刃の筆を、その腕の揮うに任せてどこへでも斬りこんで行くのだ。ことにその軍国主義や軍隊に対する容赦のない攻撃は、僕にとってはまったくの驚異だった。軍人の家に生れ、軍人の間に育ち、軍人教育を受け、そして軍人生活の束縛と盲従とを呪っていた僕は、ただそれだけのことですっかり秋水の非軍国主義に魅せられてしまった。
 僕は秋水の中に、僕の新しい、そしてこんどは本当の「仲
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