きそうになるのを絶えずそばから激励して、無理やり引っぱって行ったのだった。そしてその子は、本当のゼロから出立してそこに到達した、その年のたった一人として好成績を歌われた。
 最近、汽車の中でこの男に会ったが、参謀肩章なぞをさげて立派な士官になっていた。はじめ僕はすぐ前にいるのにそれと気がつかなかったが、向うで名刺を出して見せて、「御存じでしょうな」と言われたのでやっと分った。やはり昔のように、「ハア、ハア……何とかであります」と上官にもの言うように話していた。その時にはまだ大尉だったが、この頃ではもう少佐になったろう。

   四

 僕の腕白は二年になってますますひどくなったが、それと同時にまた僕の頭を圧える奴が出て来た。それは、第一期生が出て行ったあとで初めてその頭をあげた、第二期生だった。
 僕は第一期生の「仲間」と一緒に、外套を頭からかぶって、第二期生の左翼の寝室を襲うたこともあった。また第二期生の「少年」をちょいちょいからかったこともあった。そんなことは古参生たる第二期生どもには非常な憤慨であったに違いない。そしてその少年の一人のいた石川県人どもが、まず僕を目のかたきにしだし
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