そしてその細君は、翌朝、夫の名誉の戦死の電報を受けとった。

   二

 二、三カ月その家にいたあとで、二軒町という隣り町の、高等小学校のすぐ前に引越した。そして、そこで初めて、十の年の暮に、僕は性の遊びを覚えた。
 同じ焼け出されの軍人の家に川村というのがあった。そのお母さんと娘とがすぐ近所に間借りをしていた。母とそのお母さんとは兄弟のように親しくしていた。僕もそのお母さんは大好きだった。が、それよりも僕は、その娘のお花さんというのがもっと大好きだった。
 お花さんは僕とおない年か、あるいは一つくらい年下だった。ほとんど毎日僕の家に遊びに来た。そして大抵は、妹等と遊ばずに、僕とばかり遊んでいた。
 みんなで一緒に遊ぶ時には、よくみんなが炬燵にあたって、花がるたかトランプをして遊んだ。そんな時にはお花さんはきっと僕のそばに座を占めた。お花さんの手と僕の手とは、折さえあれば、炬燵の中でしっかりと握られていた。あるいはそっとお互いの指先きでふざけ合っていた。そして二人で、お互いにいい気持になって、知らん間にそれをほんとうの(三字削除)びに使っていた。
 が、お花さんも僕も、それだけのことでは満足ができなかった。二人は、二階の僕の室で、よく二時間も三時間も暮した。そしてそこでは、誰に憚ることもなく、大人のようなことをして遊んでいた。

 その頃僕にはもう一人の女の友達があった。それは、やはり近所に住んでいた、千田という軍人の娘だった。
 ある日僕は、どんないたずらをしたのか忘れたが、母に「あやまれ」と言って迫られた。が、迫られれば迫られるほど、ますますあやまることができなくなった。
 夕飯が済んでから、母は「もうこんな強情な子の世話はできないから、東京の山田の伯母さんのところへ行ってしまう」と言って、女中や子供等にみんなに着物を着かえさして、小さな行李を一つ持って、みんなでどこかへ出かけて行った。僕は東京へ行くというのは嘘だろうと思ったが、そのやりかたが大げさなので、実際どこかへ行ってしまうのじゃあるまいかと心細くなった。しかし、何だってあやまるものかと思いながら、仕方なしに床を敷いて寝ていた。
 二、三時間して、玄関へどやどやと大勢はいって来る声がした。母を始め出て行ったみんなと、千田のお母さんと娘の礼ちゃんとが来たのだ。
「伯母さんがあやまってあげるから、もう決して
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