こへ、しばらくして、彼女がやって来た。顔色も態度も、さっきとはまるで別人のように、落ちついていた。
「私、あなたを殺すことに決心しましたから。」
彼女は僕の前に立って勝利者のような態度で言った。
「うん、それもよかろう。が、殺すんなら、今までのお馴染甲斐に、せめては一息で死ぬように殺してくれ。」
僕はその「殺す」という言葉を聞くと同時に、急に彼女に対する敵意の湧いて来るのを感じたのであったが、戯談半分にそれを受け流した。
「その時になって卑怯なまねはしないようにね。」
「ええ、ええ、一息にさえ殺していただければね。」
二人はそんな言葉を言いかわしながら、しかしもう、お互いの顔には隠しきれない微笑みがもれていた。
彼女はまたもとの姉さんに帰ったのだが、僕と伊藤とはこの姉さんにあまりに甘えすぎたようだ。あまりに無遠慮すぎたようだ。それをあまりに利用しすぎたとまでは思わないが。そしてそのたびに彼女はヒステリーを起しはじめた。
ヒステリーとまでは行かんでも、その後彼女は、その生来の執拗さがますますひつっこくなった。いろんな要求がますます激しくなった。そして、それが満足されなければされないほど、それだけまたますますひつっこくなり、ますますうるさくなるのであった。が、ここに白状して置かなければならないのは、僕はだんだんこの執拗さにいや気がさして行ったのであるが、しかしまた、その執拗さが僕にとっての一つの強い魅力ででもあったことだ。
彼女は折々その執拗さを遠慮した。が、それはいつも、さらに数倍の執拗さをもって来る前ぶれのようなものだった。そしてその執拗さが満足されないと、彼女はきまってそのヒステリーを起した。そしてそのたびに、彼女の口から、例の「殺す」という言葉が出た。その言葉を聞くと、僕は奮然として、その席を起って出た。
かくして僕は彼女から三度ばかり絶交を申渡された。が、その翌日には、彼女はきっと謝まって帰って来るのだった。そしてその最後に謝まって来た時には、僕は彼女に、もう一週間熟考して見るがいいと言って、いったんそれを斥けた。彼女はその一週間が待てないで、その翌日また謝まって来た。
「しかし、こんどはもう、断然その絶交をこっちから申渡すんだ。」
僕は原稿紙を前に置いたまま、それにはただ「善政とは何ぞや」という題を書いただけで、独り言のように言った。
「こん
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