と同時に、僕は一種の自暴自棄に陥っていた。先きに僕は知識階級の間に宣伝することのほとんど無駄なことを悟って、哲学や科学や文学の仮面の下に自由思想を論じた最初の『近代思想』は、要するに知識的手淫に過ぎないものと断じた。そして二年間もいつくしんで来てようやく世間から認められだしたそれを止して、僕等の本来に帰るんだと言って、別に労働者相手の『平民新聞』を創めた。それが前にも言ったように、半年間発売禁止を続けてついに倒れ、さらに半年間の準備によって再び起された『近代思想』も同じ運命の下に倒されてしまった。僕等はもうちょっと手の出しようがなかった。それでも、もし僕等同志の結束でも堅いのであったら、また何とか方法もあったのだったろう。が、ごく少数しかいない同志の間にもこれがうまく行かなかった。同志の間にはまだ運動に対する本当の熱がなかったのだ。
「僕等はまるで暖簾と腕押しをしているのだな。」
当時ほとんど一人のようになっていた荒畑寒村と僕とが、よく慨き合った言葉だった。
かくして、もう何もかも失ったような僕が、その時に恋を見出したのだ。恋と同時に、その熱情に燃えた同志を見出したのだ。そして僕はこの新しい熱情を得ようとして、ほとんどいっさいを棄ててこの恋の中に突入して行った。
その恋の対象がこの神近と伊藤とだったのだ。が、その恋ももう堕落した。僕等三人の間には、友人または同志としての関係よりも、異性または同性としての関係の方が勝って来た。そしてその関係がへたな習俗的なものになりかかっていた。
例のおげんさんによって夕飯が運ばれた。そしてこのおげんさんの寂しい顔が、みんなの気まずい引きたたない顔の中にまじった。好きなそして甘そうな料理ばかり註文したのだが、僕も伊藤もあまり進まなかった。神近もちょっと箸をつけただけで止した。
伊藤は箸を置くとすぐ、室の隅っこへ行って何かしていたがいきなり立ち上って来て、
「私帰りますわ。」
と、二人の前に挨拶をした。
「うん、そうか。」
と、僕はそれを止めることができなかった。神近もただ一言、
「そう。」
と言ったきりだった。
そして伊藤はたった一人で、おげんさんに送られて出て行った。
二人きりになると、神近はまた、前よりももっと、愚痴らしくそしてまた言いわけらしく、来た時に言った言葉を繰返した。僕も不機嫌にやはり前に言った言葉を
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