かじめ言いつけられて来たのだ。僕等はその人足に送られて山の麓まで出て、そこから車に乗って帰った。

   二

 母の死体がうちへ着いた時に、僕はその棺のそばに、礼ちゃんが立っているのを見た。礼ちゃんも二、三日前から新潟の母のところへ行っていたのだ。たしかその晩だったと思うが、夜遅くなってから、お通夜をするというのを無理やりにみんなに帰れ帰れと勧められてうちへ帰った。そして、高級副官の父のもとにやはり旅団副官をしていた何とかいう中尉の細君が、これはまだ若いそうして連隊じゅうで一番綺麗な細君で、僕は前からずいぶん親しくしていたのだったが、そっと僕の肩を突っついて、しかし高い声で、僕に礼ちゃんを送って行くようにと勧めた。ほかの人達も、それと一緒になって、同じように僕に勧めた。僕は急に胸をどきどきさせながら、ちょっとためらった。礼ちゃんはもじもじしながら、にこにこして、僕が座を立つのを待っているようだった。綺麗な細君もやはりにこにこして、僕の顔を見ているようだった。僕はこの二人の若い細君の微笑みに妙に心をそそられた。
 僕はすぐ提灯を持って、礼ちゃんと一緒にうちを出た。そとは真暗だった。礼ちゃんと僕とはほとんどからだを接せんばかりに引っついて行った。二人がこんなにして歩くのはこれが初めてだったのだ。僕はもう母が死んだことも何もかも忘れてしまった。そして提灯のぼんやりした明りを二人の真ん中の前にさし出して、ますます引っついて歩いて行った。二人は何か声高に話しながら笑い興じていたようだった。
「あら、斎藤さんじゃありませんか。」
 二人は向うから軍服を着て勢いよく歩いて来る男にぶつかりそうになって、礼ちゃんはその男の顔を見あげながら叫ぶようにして言った。それは礼ちゃんのうちと同僚の斎藤中尉だったのだ。この中尉は、僕がまだ幼年学校にはいる前、彼がまだ見習士官だった頃から、僕もよく知っていた。が、中尉の方ではちょっと僕等が分らないらしかった。
「君は何だ。」
 中尉は礼ちゃんの方へ食ってかかるように怒鳴った。
「いや、僕ですよ。」
 僕は礼ちゃんをかばうようにして一足前へ出て言った。中尉はじっと僕の顔を見つめていたが、
「やあ、君でしたか。これはどうも失礼。僕はまた……いや、これからお宅へ行くところなんです。どうも失礼。」
 と、多少言葉は和らげながらも、まだぷりぷりしたような様
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