ン著近代思想史、ゴーリキー短篇集。以上幸徳家。
近代政治史、ゴーリキー平原。以上上司家。
外に前に言ったのはどうした。
*
堀保子宛・明治四十三年四月十三日
戸籍法違犯とかいうので、この八日に裁判所へ喚び出された。ちょうど一年半目に人間の住む社会なるものを例の金網ごしにのぞき見した。僕等の住んでいる国に較べると、妙に野蛮と文明とのごっちゃまぜになったとこのように感じた。いちょう返しがひどく珍らしかった。桜も四、五本目についた。事は相続の手続きが遅れたとかいうのでほんのちょっとした調べではあったが、口の不自由になっているのには自分ながらほとほとあきれた。それと最初の答から海東郡だの神守《かもり》村だのという言いにくい言葉ばかりなんだから。僕はこんど出たら、どこか加行や多行の字のないところに転籍する。その後その決定が来た。科料金弐拾銭。
ことしは四月にはいってから毎日のように降ったり曇ったりばかりしていて、したがって寒いので少しも春らしい気持をしなかったが、きょうはしばらく目のいい天気だ。何だかぽかぽかする。このぽかぽかが一番社会を思出させる。社会と言っても別に恋しいところ
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