下の居所が分らない。しかしすぐまた三保へ行くとも言っていたし、またあの字を見るといかにもよく僕のをまねてはいるが伸の書いたもののようだ。そこで三保へ宛てることとした。そして足下の名だけでは分るまいと思って、伸の名をも添えて置いた。別に間違いはなかったろうね。
 家のことは、僕がいろいろな事情があるのだから是非会わしてくれと、少々理屈を言いかけたら、ついに僕の返事を聞かないで行ってしまったから、看守長は足下に何と言ったか知らんが、ともかく売ることにきめてあるのだし、それに委任状にも印を押して置いたから、いいように取りはからったことと思う。いい買手があったのか。
 家が売れたとなれば、これで遺産の大体の処分はついた。これからは僕等が、六人の弟妹という重荷を負って行くこととなる。僕等[#「僕等」に傍点]と言ったが、実はすべてのことの衝に当るのは僕でなくして足下だ。したがって、実際に重荷を負うのは足下だ。僕は、もし霊とかいうものがあって亡き父がこれを見たら何と思うだろうかなどと考えて見た。しかし父のためではない、僕のためだ。僕は、足下がこの運命に甘んじていることと思う。
 それは別問題として、
前へ 次へ
全118ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング