出る意があるなら勿論出て貰いたい。また、あくまで止るという母の言も文字そのままに受取ることはできぬ。母としては面目上必ずそう言わねばならぬ位置にある。そこで足下は女同士でもあり、互いに話もしいいと思う、よく母と打ちあけて談合して見るがいい。したがって、案は、母が出るものとしてのそれと、止るものとしてのそれと二つになる。
 次に起るのは財産の問題だ。財産と言ってまず目星しきものは昨日話した通りだ。
 もし母が出るとすれば、あの中の保険金は母の持参金としてもどさねばならぬ。その上、母の将来の生活の幾分かの保証として、多少これに附加するところなければならぬ。それは年金の中三百円乃至五百円ぐらいでよかろうと思う。そのかわり、今母の名義になっている地所は置いて行って貰いたい。家と土地と持主が違ってはいろいろ不便でもあり、また母の持参金を返すとすれば、自然その地所を母の名とする理由も消えるわけだ。されば母の方から言えば、その地所をこの手切れとも言うべき三百円乃至五百円で売るということになるだろう。
 僕はその土地の広さは知らぬが、高の知れたものと思う。しかし、もし今訴訟になっている金が取れるような
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